「建設業許可を取りたいけど、うちは社長と従業員2人の小さな会社。経管と専技を別々に用意するなんて無理なんですが…」
こういったご相談を、特に新規で建設業許可を取ろうとする会社さんからよくいただきます。
建設業許可には「経営業務管理責任者(経管)」と「専任技術者(専技)」の2つの人的要件がありますが、この2つは同一人物が兼任できます。社長1人で両方を満たしているケースは珍しくありません。
ただし「兼任できる」と一言で言っても、実際に申請してみると引っかかるポイントがいくつかあります。この記事では、兼任が認められる条件、よくある落とし穴、他の資格や役職との兼務関係まで、実務でよく問題になる点を詳しく解説します。
そもそも経管と専技はどう違う?
まず前提として、この2つの役割の違いを整理しておきます。
経営業務管理責任者(経管) は、「この会社にはちゃんと建設業の経営が分かっている人がいますよ」という証明です。建設業に関する経営経験が5年以上ある常勤の役員が必要です。会社全体に1人いればOKで、主たる営業所(本社)に常勤します。
専任技術者(専技) は、「この営業所には工事の技術が分かっている人がいますよ」という証明です。国家資格を持っているか、特定の業種で10年以上の実務経験がある人が必要です。こちらは営業所ごとに1人ずつ必要で、それぞれの営業所に常勤します。
つまり、経管は「経営の人」、専技は「技術の人」。求められている能力の方向がまったく違います。でも、建設業の世界では社長自身が現場に出て技術も持っているケースが多い。だから兼任が認められているわけです。
兼任が認められるたった1つの条件
経管と専技の兼任に必要な条件は、実はとてもシンプルです。
同一の営業所(原則として主たる営業所)で常勤していること。
これだけです。
営業所が本社1か所だけの会社なら、この条件は自動的にクリアされます。社長が経管であり、同じ本社の専技でもある、という形です。新規で許可を取る小規模な会社の多くはこのパターンに当てはまります。
逆に、営業所が複数ある場合は注意が必要です。経管は主たる営業所(本社)に常勤する必要があるので、本社の専技は兼任できますが、支店や営業所の専技を兼ねることはできません。支店の専技には別の人を配置する必要があります。
1人で兼任する場合の典型的なパターン
実際にご相談いただくケースで多いのは、次のようなパターンです。
パターン1:代表取締役が資格を持っている
社長が建築士や施工管理技士などの国家資格を持っていて、かつ建設業の経営経験が5年以上ある場合。これが一番シンプルで、資格証と登記事項証明書(役員在籍の証明)があれば、比較的スムーズに申請が通ります。
パターン2:代表取締役が10年以上の実務経験を持っている
国家資格がなくても、特定の業種で10年以上の実務経験があれば専技の要件を満たせます。社長がずっと現場に出ていた場合、経営経験5年以上+実務経験10年以上の両方を満たしているケースは多いです。
この場合、前職と現職を合算して10年を証明することもできます。具体的な証明方法については、別の記事「[2社の経歴で専任技術者の10年実務経験を証明する方法]」で詳しく解説しています。
パターン3:取締役(代表ではない)が兼任する
社長以外の取締役でも、経管と専技の兼任は可能です。代表取締役である必要はありません。ただし、その取締役が主たる営業所に常勤していること、経営経験と技術的な要件の両方を満たしていることが必要です。
よくある落とし穴5つ
「兼任できると聞いたから大丈夫だろう」と思って準備を進めたら、思わぬところで引っかかった――そんなケースを実務上よく見かけます。
落とし穴1:他社の役員を兼務している
経管にも専技にも「常勤性」が求められます。他社の代表取締役や常勤役員を兼務している場合、常勤性が否定される可能性があります。
特に問題になりやすいのが、他の会社でも経管や専技に登録されている場合です。2つの会社で同時に常勤することは物理的に不可能なので、片方を外す必要があります。
法人の登記上は複数社の取締役を兼ねることは可能ですが、建設業許可の世界では「常勤しているのはどちらか」が厳しく見られます。
落とし穴2:宅建士との兼務
建設業と不動産業を兼業している会社で多いのがこのパターンです。宅地建物取引業の「専任の宅地建物取引士」は、宅建業法上「専らその事務所で宅建業の業務に従事する」ことが求められています。
そのため、宅建士の専任と、建設業の経管・専技を兼ねることは原則としてできません。同じ事務所であっても、宅建業法側の「専従性」の要件に抵触するためです。
落とし穴3:経管の経験年数が足りない
令和2年10月の法改正で、経管の要件は以前より柔軟になりました。しかし基本形は「建設業に関して5年以上の経営経験」です。
ありがちなのが、「個人事業主として10年やっていたから経管も大丈夫だろう」と思ったら、法人成りしてからの期間しかカウントされなかったというケース。個人事業主の場合は事業主本人の経験としてカウントできますが、従業員として働いていた期間は経管の経験にはなりません。
落とし穴4:専技の業種と経管の経験業種が一致しない
経管の経験は「建設業全般」であればよく、特定の業種に限定されません(令和2年改正以降)。一方、専技は業種ごとの要件です。
この2つは別の話なので直接ぶつかることはありませんが、注意すべきなのは証明資料の整合性です。経管の証明で「前職では建築一式工事をやっていた」と書いておきながら、専技の証明では同じ会社の同じ期間で「防水工事をやっていた」と書くと、窓口で「どっちなんですか?」と突っ込まれます。
実際には両方やっていたとしても、書類上の整合性は意識して組み立てる必要があります。
落とし穴5:現場に出すぎている
専技は「営業所に常勤」が原則です。社長が経管と専技を兼任していて、自ら現場にも出ている場合、「本当に営業所に常勤しているのか?」という問題が生じることがあります。
特に、主任技術者や監理技術者として現場に配置された場合、営業所の専技を兼ねることには制限があります。近隣の工事で、常勤性に支障がない範囲であれば認められるケースもありますが、遠方の現場に長期間出る場合は別の専技を置くことが求められます。
令和2年改正で何が変わった?
令和2年10月の建設業法施行規則改正は、経管の要件を大きく変えました。兼任を考えている方に影響が大きいポイントを押さえておきます。
改正前
経管になるには、許可を受けようとする業種について5年以上の経営経験が必要でした(他業種なら7年)。たとえば防水工事業の許可を取るには、防水工事業での経営経験5年が求められたわけです。
改正後
建設業であれば業種を問わず5年の経営経験でOKになりました。つまり、建築一式工事の会社で5年間取締役をやっていた人が、防水工事業の経管になることもできます。
これは兼任のハードルを大きく下げました。以前は「経管は満たすが、その業種の専技が別にいない」というケースが多かったのが、業種の縛りがなくなったことで、1人で両方を満たしやすくなっています。
実務上のアドバイス:兼任で申請するときのポイント
先に経管から固める
経管と専技の両方を検討する場合、まず経管の要件を確認することをおすすめします。
理由は、経管の方が要件が厳格で、満たせる人が限られるからです。専技は国家資格でも実務経験でも取れますが、経管になれるのは役員経験者だけ。先に「経管をやれる人」を決めて、その人が専技の要件も満たしているか確認する順番が効率的です。
証明書類は「経管用」「専技用」の共通部分を意識する
兼任の場合、同じ期間・同じ会社に対する証明書類が経管用と専技用で重複します。重複する書類を意識して整理しておくと、前職の会社にお願いする手間も最小限で済みます。
たとえば、前職の会社の代表者に押印してもらう書類は、様式第七号(経管証明書)と様式第九号(実務経験証明書)をセットにして一度に渡す、という段取りが有効です。
事前に窓口で相談する
経管と専技の兼任パターンは、都道府県によって求められる確認資料が微妙に異なることがあります。特に、前職の会社が許可を持っていなかった場合の裏付け資料は、窓口の担当者の判断に左右される部分もあります。
書類を全部揃えてから窓口に行くのではなく、構成が固まった段階で一度事前相談に行くことを強くおすすめします。
まとめ
経管と専技の兼任は、制度上は問題なく認められています。同一営業所で常勤していれば、社長1人で建設業許可を取ることは十分に可能です。
ただし、他社の役員兼務や宅建士との兼務など、常勤性が否定されるケースには注意が必要です。また、兼任できるかどうかの制度面だけでなく、実際にどう証明するかの書類の組み立て方が合否を分けます。
次の記事では、2社の経歴を合算して専任技術者の10年実務経験を証明する具体的な方法を解説します。
▶ [2社の経歴で専任技術者の10年実務経験を証明する方法]
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