2社の経歴で専任技術者の10年実務経験を証明する方法|前職+現職の合算パターンを徹底解説

専任技術者の要件を実務経験で満たそうとしたとき、1社だけでは10年に届かないということがあります。

「前の会社で8年、今の会社で2年。合計すれば10年なんだけど、これって認められるの?」

結論から言えば、2社以上の経歴を合算して10年以上を証明することは可能です。むしろ転職が当たり前の建設業界では、よくあるパターンです。

ただし、1社で完結するケースと比べて、書類のハードルは確実に上がります。証明書が2通になり、前職の協力が必要になり、裏付け資料も倍になる。準備不足で窓口に持っていくと「ここが足りません」と差し戻されるケースが少なくありません。

この記事では、2社の経歴を合算して専任技術者を証明する場合の、書類の全体像から実務上のハマりポイントまでを具体的に解説します。


目次

前提:なぜ10年の実務経験が必要なのか

専任技術者になるルートは大きく3つあります。

ルート条件証明の難易度
国家資格施工管理技士、建築士など資格証の写しだけ。簡単
指定学科卒+実務経験大卒3年、高卒5年卒業証明書+実務経験
実務経験のみ10年以上最も書類が多い

国家資格があれば話は早いのですが、資格なしで許可を取ろうとすると、10年の実務経験ルートを選ぶことになります。そしてこの10年分を、すべて書面で証明しなければなりません。


2社合算の全体像

前職A社(8年)+ 現職B社(2年)で10年を証明するケースを例に、必要な書類の全体像を整理します。

必要な様式

実務経験証明書(様式第九号)が2通必要です。 会社ごとに1通ずつ作成し、それぞれの会社の代表者に押印してもらいます。

様式証明者(押印する人)内容
様式第九号(A社分)A社の代表者A社での実務経験(約8年分)
様式第九号(B社分)B社の代表者B社での実務経験(2年分)

注意してほしいのは、2社分をまとめて1通にはできないということです。証明者(押印者)が違うので、必ず会社ごとに分けます。

裏付け資料

様式第九号に書いた内容を裏付ける資料が、会社ごと・年度ごとに必要です。

資料A社分B社分
工事の裏付け(請求書、契約書等)各年度1件以上 × 8年各年度1件以上 × 2年
入金の裏付け(通帳の写し)請求書と対応するページ同左
在籍確認(登記、年金記録等)8年分の在籍を証明2年分の在籍を証明

2社分なので、単純に資料の量が倍近くになります。これが2社合算パターンの最大のハードルです。


ステップ1:まず経歴の全体像を整理する

書類を集め始める前に、時系列で経歴を整理してください。

(例)
H28.4 ~ R6.6  A社(取締役として在籍・防水工事に従事)= 約8年2ヶ月
R6.7  ~ R8.6  B社(技術者として在籍・防水工事に従事)= 2年
─────────────────────────────────────
合計 約10年2ヶ月 → 片月落としで計算しても10年超

このとき確認すべきポイントは3つです。

① 期間が途切れていないか

A社を辞めてからB社に入るまでにブランクがある場合、その期間はカウントできません。1~2ヶ月程度の空白なら全体で10年を超えていれば問題ありませんが、長期間のブランクがあると年数が足りなくなることがあります。

② 片月落としで計算しても120ヶ月を超えるか

多くの都道府県では「片月落とし」という計算方法が適用されます。入社月と退社月のどちらか一方を切り捨てるルールで、たとえば「H28年4月~R6年6月」は99ヶ月ではなく98ヶ月になります。

10年=120ヶ月ぴったりを狙っていると、片月落としで1ヶ月足りないという事態が起こり得ます。かならず120ヶ月を超えているか、計算し直してください。

③ 期間の重複がないか

A社とB社の在籍期間が重なっている場合、重複部分は片方しかカウントできません。転職のタイミングによっては、月単位で重なることがあるので注意してください。


ステップ2:在籍期間を客観的に証明する

「その会社にいつからいつまでいたか」を書面で証明する必要があります。証明方法は在籍時の立場によって変わります。

役員だった場合 → 法人の登記事項証明書

法務局で取得できる履歴事項全部証明書に、取締役の就任日と退任日が記載されています。これが最も強力な在籍証明です。

ポイントは「履歴事項全部証明書」を取ること。「現在事項証明書」では退任済みの役員は表示されない場合があります。

法務局のオンラインサービス(かんたん証明書請求)を使えば、1通480円で郵送取得できます。前職の会社に頼む必要がなく、自分で取れるのも利点です。

従業員だった場合 → 社会保険・年金記録等

役員ではなく従業員として在籍していた場合は、以下の資料で在籍期間を証明します。

  • 健康保険・厚生年金の加入記録(年金事務所またはねんきんネットで取得)
  • 雇用保険の被保険者記録(ハローワークで取得)
  • 住民税の特別徴収税額通知書(在籍中の会社名が記載されている)

いずれか1つあれば基本的にはOKですが、都道府県によって求められる資料が異なります。事前に窓口に確認してください。


ステップ3:工事の裏付け資料を集める

在籍していたことが証明できても、「その期間に本当に防水工事(=許可を取りたい業種の工事)をやっていたのか?」を証明する必要があります。ここが2社合算パターンで最も手間がかかるところです。

前職の会社が建設業許可を持っていた場合

前職が許可業者なら、許可通知書の写しがあれば「その会社は建設業をやっていた」と分かるため、工事実績の裏付けは大幅に軽減されます。都道府県によっては、許可業者なら請求書等の裏付けを省略できる場合もあります。

ただし、許可を持っていた業種と、証明したい業種が一致しているかは確認してください。「建築一式工事」の許可しか持っていなかった会社で「防水工事」の経験を証明するには、追加の裏付けが必要になることがあります。

前職の会社が許可を持っていなかった場合

前職が無許可業者だった場合は、工事の実績を1件1件、書面で裏付ける必要があります。具体的には、各年度ごとに最低1件の以下のいずれかが必要です。

  • 工事請負契約書の写し
  • 注文書+注文請書の写し
  • 請求書の写し+入金が確認できる通帳の写し

最も多いのが「請求書+通帳」のセットです。契約書をきちんと交わしている会社ばかりではないので、請求書と通帳で代替するケースが実務上は圧倒的に多いです。


請求書の「件名」が合否を分ける

ここが一番ハマるポイントです。

請求書を裏付け資料として使う場合、請求書の件名から「何の業種の工事か」が読み取れることが求められます。

OKな件名の例

  • 「○○ビル屋上防水工事」
  • 「○○マンション バルコニー防水改修」
  • 「○○工場 ウレタン塗膜防水」

これらは件名を見ただけで「防水工事」だと分かるので問題ありません。

NGになりやすい件名の例

  • 「○○ビル改修工事」
  • 「○○マンション補修工事」
  • 「○○工場メンテナンス」

これでは「何の工事か」が特定できません。改修工事の中に防水が含まれていたとしても、件名だけでは判断できないため、窓口で認められないリスクがあります。

対処法

前職の会社に請求書のコピーをお願いする際は、「防水」「防水工事」という文言が件名に入っているものを優先して抜き出してくださいと伝えるのがコツです。

「全部まとめて出すので見てください」と丸投げされると、件名が曖昧なものが混在して選別に手間がかかります。最初から条件を明確にしてお願いするのが効率的です。

もし件名に「防水」が入った請求書がどうしても見つからない場合は、工事の内訳書や見積書の中に防水工事の明細が記載されているものを併せて提出する方法もあります。ただしこの場合は事前に窓口で相談することを強くおすすめします。


ステップ4:様式第九号を作成する

裏付け資料が揃ったら、実務経験証明書(様式第九号)を作成します。2社分なので2通です。

記入のポイント

「使用された期間」欄には、その会社での在籍期間(=登記や社会保険で証明できる期間)を記入します。

工事欄には、請求書等で裏付けられる工事を年度ごとに記入していきます。ここで注意したいのは、工事名・発注者名・工事内容は請求書の記載と一致させること。窓口では様式第九号と請求書を突き合わせて確認するので、表記がズレていると指摘を受けます。

「従事した立場」欄には、「技術者」「現場代理人」「職長」など、実際に技術的な業務に従事していたことが分かる立場を記入します。「営業」「事務」では実務経験として認められません。

月数欄には各工事に従事した月数を記入し、合計月数が自動的に算出されるようにしておくと便利です。

前職と現職の合計が120ヶ月を超えることを確認

A社分の様式第九号の合計月数と、B社分の合計月数を足して120ヶ月以上になるかを最終確認します。片月落としも踏まえて、余裕のある数字になっていることを確認してください。


ステップ5:前職の会社に押印をもらう

様式第九号は、その会社の代表者の押印が必要です。現職の会社は問題ないとして、前職の会社にお願いする必要があります。

前職の会社との関係が良好な場合

記入済みの様式第九号と、「ここに押印をお願いします」という説明をセットにして渡すのが一番スムーズです。白紙の様式を渡して「書いてください」とお願いすると、何を書けばいいか分からず放置されることがよくあります。

また、経管も同一人物で兼任する場合は、経管の証明書(様式第七号)も同じ会社の代表者に押印してもらう必要があります。様式七号と様式九号をまとめて一度にお願いするのが、相手の負担を最小限にするコツです。

前職の会社が廃業している場合

前職の会社がすでに廃業してしまっている場合、代表者個人に連絡が取れれば、元代表者として押印してもらうことが可能です。

連絡が取れない場合や、代表者が亡くなっている場合は、都道府県によっては代替措置が認められることがあります(申立書の提出など)。ただしハードルは高いので、早めに窓口に相談してください。

前職の会社が協力してくれない場合

残念ながら、前職の会社に押印を断られるケースもあります。退職時のトラブルや、単純に面倒だという理由で断られることもあります。

この場合、別の会社での経験を積み直すか、国家資格を取得するのが現実的な代替策になります。10年の実務経験ルートは、前職の協力がなければ証明できない構造になっているため、この点は事前に確認しておくことが重要です。


前職の会社が許可を失効・取消になっていた場合

前職の会社の建設業許可が「取消処分」を受けていた場合、注意が必要なのは専技の証明よりも、欠格要件の問題です。

許可取消処分の時点で役員だった人は、取消から5年間は他の会社でも建設業許可の役員になれない(欠格要件に該当する)可能性があります。

ただし、「許可が切れた=取消処分」とは限りません。単に更新しなかっただけ(失効)であれば、欠格要件の問題は生じません。建設業許可は5年ごとの更新が必要で、更新しなければ自動的に失効します。これは処分ではないので、経営に支障はありません。

不安がある場合は、国土交通省のネガティブ情報検索サイトで過去5年分の行政処分を検索できます。5年以上前のことであれば、管轄の都道府県に直接照会することも可能です。


実際のスケジュール感

2社合算パターンで申請する場合、1社完結のケースよりも準備に時間がかかります。目安として、資料収集の依頼を始めてから申請まで1.5~3ヶ月は見ておいてください。

(例)
6月   :経歴の整理、前職の登記取得、前職に資料依頼
7月   :請求書・通帳の受領、内容チェック、様式作成
7月末 :前職に押印依頼、現職の押印
8月初 :鮮度書類(納税証明・残高証明・登記等)の一括取得
8月中 :申請

一番のボトルネックは前職からの資料入手と押印です。ここが遅れると全体がずれるので、最初に声をかけておくのが鉄則です。


まとめ

2社の経歴を合算して専任技術者の10年実務経験を証明するのは、書類の量は多いですが、手順を分かっていれば着実に進められます。

ポイントを整理すると次の通りです。

経歴の整理:片月落としで120ヶ月を超えるか。期間の重複やブランクがないか。

在籍の証明:役員なら登記、従業員なら年金記録や社会保険記録。

工事の裏付け:各年度1件以上、業種が特定できる件名の請求書+通帳。前職が許可業者なら軽減される。

様式第九号:会社ごとに1通。記載内容は裏付け資料と一致させる。

前職の協力:押印+請求書・通帳のコピー。早めに依頼し、必要なものを明確にして渡す。

資格がなくても、1つの会社で10年勤めていなくても、正しく証明できれば建設業許可は取れます。

▶ 前の記事:[経管と専技は同一人物で兼任できる?条件と落とし穴]


2社以上の経歴での専任技術者証明は、書類の組み立てが許可取得のカギです。ご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。

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